《庭園ミュージアム》


  ここで紹介するのは、日本での遅々とした、困難な私の歩みを証言するテキストです。私はこの国でなにか有効なことをするために歩んできました。どうかこのページに立ち止まっていただき、忍耐強く読んでいただければ幸いです。心で読んでいただくことでしか、私と私を可能な限りサポートして下さっている友人たちの歩みの誠実さを理解することは出来ません。
  このテキストは、子どもの足跡プロジェクトとボランティアの人類的な様相をテーマとした庭園ミュージアムを構想する内容となっております。2003年の初めにフロントアジア推進会議の2回にわたる会合で提案しました。私がこれらの会合で用意しましたテキストをそのまま記載します。もし読者の中で、この構想にご共感頂き、実現に向かって推進する道筋として何かご提案がありましたら、是非ご連絡いただきたいと思います。

「希望とは、もともと存在しない、それは、地上の道のようなものだ。
     多くの人間がそこを歩くことによって、自ずと形成されるのだ」
  《魯迅》

 庭園ミュージアム はじめに
 「なし」と「子どもの足跡プロジェクト」のための庭園ミュージアム構想
 子どもの足跡プロジェクトのための庭園ミュージアム構想 提案II


 この7年間、フロントアジアを推進するためにフロントアジア推進会議は2本のレールを敷いてきました:

1. 子どもの足跡プロジェクト"The Trace of Walking"
2. フロントアジアヴィレッジ

  子どもの足跡プロジェクトは、子どもたちにコミュニティーの価値と差異の価値を知ってもらう、実践的な作業でありますが、これまでに、我々に忘れられない多くの感動を与えてくれました。子どもたちと関わることは、常に発見と学習の連続であります。子どもたちが我々に、彼らの両親や祖父母、先生、そして沢山の老若男女のボランティアの方々と分かち合うことを助けてくれました。

  私は、世界の多くの子どもたちと子どもの足跡プロジェクトを実施し、人類が持つボランティア精神の象徴としての庭園ミュージアムを皆さまとともに造ることを望んでいます。最近起こった、新潟中越地震は、我々に深い苦しみを与えました。しかし、日本全国から、様々な年齢層のボランティアが、被災者を助けるために集まっているのを拝見して、喜びで心が一杯になりました。体調が不調なため、個人的に被災地へ赴き、彼らとともに働くことができず、恥ずかしく思いました。しかし、テレビなどの報道を通じて、日本人が表した同情の証言は、日本の心を動かしたことと確信しております。私が愛する日本は、このような日本です。このような日本をフロントと見ています。

  戦後、日本は、同情の力でもって築いてきました。この事実は、忘れてはならないと思います。金持ちも貧しい人も隣りあわせで新しい日本を築くために働いてきました。この絆が断ち切れてはならないのです。金持ちは、この貴重な経験を忘れてはならないのです。同情が枯渇すると、悪徳が始まり、人間を分け隔て、生活の本質から心を遠ざけてしまいます。

2004年11月4日
H. ゴルバ

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前置き
 「なし」と「子どもの足跡プロジェクト(The Trace of Walking)」は、それぞれ同じ年に、前者はイタリア、後者は日本で生まれました。両者は、人類と子どもの教育という共通の観点を持っていて、互いに強く惹かれ合っています。

 「なし」は、聖なる土地、高野山で生まれました。密教の寺の庭に輝く銀色の光が私の心を照らしたのです。私は、1996年の冬、妻とともに数日間を宿坊で過ごしました。そして、物語「なし」は、健康で清潔に生まれました。
5年という歳月が過ぎた今日、この兄と妹は、一緒に住んでもいいと思うようになりました。物語「なし」の考えと、子どもの足跡プロジェクトの教育的なアスペクトを考慮した、庭園ミュージアムの建設は、世界の子どもたちにとって、重要な拠点となるかと思います。実際に建設され、適切な運営がされることを願って。

庭園ミュージアムの概要
■ 庭園ミュージアムは、庭園と博物館からなる。
■ 庭園について
庭園は広く、丘の多いところ。
主な植物としては、梨の木と世界各地から取り寄せたバラ。当然ながら、他に多種多様な植物が植えられる。
池、小川、湖などを造る。
湖は、家族が舟に乗って周遊することができるように造られる。
自然を観察し、瞑想することのできる、石のベンチを何カ所かに設置する。
世界各地で実施された足跡プロジェクトの子どもの足跡によって、88本の道を造る。
毎年庭園では、世界各地から寄せられる子どもの足跡を道に追加するためのイベントを実施する。
登り窯を設置する。
子どもたちが童話に親しむための場所を何カ所か造る。
音楽と演劇パフォーマンスのための自然を活かした野外劇場を造る。
失われつつある、伝統的な遊び(グループで遊ぶもの)や海外の遊びなどを体験できる場所を造る。これらの遊びに使用する玩具の素材は、シンプルで長期的に使えるようなものにしなければならない。
接ぎ木を実際に子どもたちに教える場所を造る。
物語「なし」が再現された場所:キューブの石にフレーズが刻みこまれたものを設置し、空を常に縁取ることのできる、大きな水の鏡を造る。
■ コアセンターとなる博物館について
異民族の両親を持つ混血の子どもとその家族の写真を展示するスペース。
子どもの足跡プロジェクトの活動を写真やビデオなどで紹介するスペース。
世界中の子どもの本を集めた図書館
植物の接ぎ木の歴史と人間の混血の歴史を見せるヴィジュアルアーカイヴ。
ホール(講演、ビデオ上映など)
子どもの作品を展示するスペース。
子どもたちの創造力を養成する工房スペース
食堂、喫茶店、etc

■ 補足
  これは、今のところ単なるアイディアです。日本または世界のどこかで実現の可能性があるかどうか、皆さんと考えてみたいと思います。庭園ミュージアムをつくっても、子どもの足跡プロジェクトは、平行して、世界各地で実施され、平和の小道をそれぞれの土地に残して行くことの続けたいと思います。庭園ミュージアム構想は、恐らくスポンサーを説得するにあたって、比較的分かりやすいものであるのではないでしょうか。当然ながら実現への道のりは、とても長いでしょう。しかしながら、“本物の剣は、静かで確信を持った信念である”* ということを私も学んだと思います。

 さて、ここで、控えめな提案をさせて頂きたいと思います。
 庭園ミュージアム構想を実現する可能性のある場として、私が収集した情報の範囲では、2つの場所を示すことができます。

ひとつは、横浜のこどもの国です。訪れたことはなく、ホームページで検索して見つけました。この公園を選択した動機は何でしょう? (1)子どものために造られた公園。 (2)広大である。 (3)横浜港に近い。 (4)人口2400万人の東京に近い。 (5)象徴的な理由:この公園は、天皇家が子どものために建設した公園だと聞いています。3,4年前、インドで子どもの絵本展が開催された折に、皇后美智子様が開催に当たってお言葉を述べられ、その模様をNHKで拝見しました。私は、そのお言葉に、世界の子どもたちの教育、苦しみ、将来に対して、誠意ある情熱を感じ、そのメッセージの質の高さに驚きました。人間的なクオリティーをお持ちで、また皇后という地位にある、美智子様に、私は、実現のためのサポートをお願いしたいと思います。
P.S.この公園はある考えのもとで造られているので、この庭園ミュージアムプロジェクトがこの公園にうまく張り合わせることができるか、検討する必要があるでしょう。
ふたつ目は、東京周辺には、高層オフィスビルの計画がたち切れになっている空き地があります。例えば、幕張が上げられますが、空き地面積はそれほど大きくないにせよ、後楽園や六義園ほどの規模の庭園は、建設できるのではないかと思います。当然ながら、道のりは決して楽とは言えないでしょうが。

  いずれにせよ、もし、この庭園ミュージアム構想に対して、皆さまのご理解を得られましたら、想像上の庭園ミュージアムと、ある場所を想定した庭園ミュージアムのふた通りの構想を、皆様と一緒に、分かりやすく、模型やコンピューターグラフィックなどで、簡潔化して行きたいと思います。私の希望としては、フロントアジアのメンバー全員がこの構想に関わって頂くことです。まず、幸運にも、我々には古市さんとスタッフの方々がいて、この構想のコア的な役割を是非果たして頂きたいと思います。また健康を快復されつつある、馬場さんにもより良い結果をえるために、アドヴァイザーをお願いしたいと思います。また、都市計画などをご専門とされている、野口さんには、現実的に提案の可能性がある、日本の場所など、ご指導頂ければと思います。
ありがとうございました。

2003年1月
ホセイン・ゴルバ

* Paul Kleeの日記 (1916年)
 「戦争で殺害された画家の友人、Franz Marcについて」より

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 前回の会合で提案しました、子どもの足跡プロジェクトのための庭園ミュージアム構想について、皆さまから主な問題点をご指摘頂きました:

 1. 建設費用の経済的な問題
 2. 運営と管理に関する経済的な問題

  この2点について考えさせて頂くことができて、有り難く思っております。 私は、新たな提案を考えました。上記問題点の軽減になるといいのですが。新しい提案は、子どもの足跡プロジェクトに加えて、ボランティアの仕事を、庭園ミュージアムのコアにするというものです。ボランティアの仕事の中でも、ここでは、特に、世界の子どもの問題に直接関わって仕事をするボランティアを意味します。この新しい形が、現実の社会や経済に、より適合した企画となるための、手助けとなるかどうか、一緒に見て行きたい思います。その前に、ボランティアについて、私の手短な見解を述べさせて頂きます。

■ 古代世界のボランティアの様相
 ボランティア(奉仕)は、古代共同体(コミュニティー)の純粋な感情です。奉仕する、ということは、コミュニティーへの意識があるということを意味します:他人と一緒にいることを希望する、つまり、お互いに助け合いながら、皆がともに幸福な生活をすることを希望します。

 この感情は、当然ながら、人間の意識に限られたものではありません。地球上の様々な生き物にとって、共通の意識と言えましょう。恐らく、初期のボランティアの形跡は、大敵などを前に、身の危険から、自主防衛の必要性が生じた時に見ることができるのかもしれません。そして、コミュニティーの一員として共に暮らすことを望む最初の意識は生まれたのだと思います。一度コミュニティーの中で暮らす意識が芽生えると、“慈善(チャリティー)”という感情への道が開かれます。“慈善”は、本来、ボランティア(奉仕)よりも、より古い様相を持っています。“慈善”とは、援助が必要な人を助け、見返りを期待しないことです。世界の古い信仰には、“慈善”は重要な位置を占め、今日でも“慈善”を施すとにより、神に近づくことが出来る、と考えられています。何故なら、神は、寛大だからです。

■ 近代世界のボランティアの様相
 近代世界のボランティアは、古代世界のボランティアの灰から生まれています。主に2つのグループに分けることができます:

 A. 専門家のボランティアによるグループ
 B. 自発的なボランティアのグループ、いわゆる突発的なボランティアのグループ

 経済的に発展している社会において、これまでの国家的組織に代わる、新しい形のボランティアが増えています。専門的な知識・技術を持つボランティアによる、規律のある組織は、社会の新しい問題―亡命、移民、麻薬、児童虐待、エコロジー、環境、種の保存、老人、浮浪者など―に責任を持って取り組み、新しい仕事の形をつくっています。日本には、NPO, NGO、その他の組織の形を取って、ボランティアのグループがたくさん存在します。彼らの活動範囲は、全世界に広がり、特にアフリカ、アジアで多くの取り組みがあります。国外へ商品を輸出している、日本の多くの企業は、世界の様々な場所で援助が必要な人々を助ける組織を支援しています。また、トヨタ自動車のような、日本企業のリーダーは、アジア諸国の発展や経済的支援などに関する独自のプログラムを持っており、よい例だと思います。このような社会問題を経済的にサポートするプログラムには、数年の経験を経た後、日本とローカルのボランティアによる、協同的なイニシアティヴも生まれています。このようなイニシアティヴの多くが、息の長いプログラムを持っています。プログラムの例としては、子どもの教育をする学校の設立と運営、エイズなどで病む子どもたちを支援する病院や施設の設立と運営、地雷を踏みハンディキャップとなった子どもたちのリハビリを支援する施設の運営などが上げられます。

  これらボランティアの仕事の様々なアスペクトを考えると、子どもたちの支援活動をする、様々なボランティアを、庭園ミュージアムのコアとしてつくることは、適切だと考えます。つまり、「子どもの足跡プロジェクト」とともに、世界に散らばる様々な家族及びその子どもたちとボランティアとの経験を集め、それらを社会的、人類的な経験の成果として見せる、庭園ミュージアムの創設です。古代的な価値によって刷新を望む近代社会にとって、重要な一歩だと思います。

■ ボランティアが関わっている、世界の子どもたちのための庭園ミュージアムは、どのようなものでしょうか?
1. 庭園の性格は、前回のテキストで説明した内容を据え置く。
2. 庭園内には、特にボランティアによってつくられた様々なコミュニティーに住む子どもたちの足跡を中心に、たくさんの道をつくるようにする。
3. 子どもたちの足跡の道により、世界のボランティアの仕事を見せた地図を庭園内につくる。
4. この足跡の道には、子どもの足跡プロジェクトに参加した子どもたちの名前だけでなく、ボランティアの組織名やそれらを支援した企業名なども記す。
5. ミュージアムには、ボランティアの仕事をドキュメント映像などで詳しく見せるアーカイヴをつくる。これらのアーカイヴから、ボランティアの仕事の理解を広めるための学校教材をつくり、配布する。
6. この庭園ミュージアムが、ボランティアのネットワーク作りや経験の交流などのための国際ミーティングの場となってもいいだろう。

■ 経済的なアスペクト
 このような構造が、国家の支援なしに建設され、運営されることができるのか、という問いかけをすることは正しいことだと思います。この問いには、経済の専門家が答える必要があると思います。この方面の専門家でいらっしゃる野口さんには、是非、このプロジェクトの経済的な計画の舵取りとなって頂き、我々を正しい道へ導いて下さることを、お願いしたいと思います。

以下の点を考慮して頂きたいと思います。
A. 景観、建物、素材、ともに洗練された美しい庭園をつくる。
B. 庭園は、世界の無数の子どもたちの足跡が、ボランティアの証人として、集められる、容器である。
C. 庭園とミュージアムは、学校や親が子どもたちに、社会への意識やコミュニティーの力、ボランティアについて教える場である。
D. 世界各地で実施された子どもの足跡の道を有する庭園は、社会的な経験の場となり、将来的には、国際的なコミュニティー、特に直接プロジェクトに関わったコミュニティーのフライヤーなどに記載されることだろう。
 
以上の点を考慮すると、庭園は、以下を通じて、自主運営することが出来ます。
A. 入場料の収益
B. 社会問題に敏感な協会、企業などの年会費
C. 国際的な財団や企業、個人などによる設立会員からの寄付金
D. 販売:ブックショップをつくり、庭園ミュージアムの活動に関するドキュメント映像、写真、ビデオ、本、絵はがき、カレンダーなどの売上。
E. 公立、私立学校の教材制作に文部省の経済的な協力を得る。

■ 建設及び運営に関するアスペクト
このような教育的なプロジェクトは、日本以外の国際的なストラクチャーのいくつかも関心を持つ可能性があります。

例:
  1. Grameen Bank
  2. アガカン財団
  3. EU
  4. ASEF
  5. ユネスコ

  ボランティアをベースとした、より詳細なプロジェクトをつくるには、“リーダー”と呼ぶ、研究グループの結成:― 研究グループ “リーダー”は、東京に支部を持つ、ひとつか複数のNPOによって結成されます。例えば、NPOサポートセンター。フロントアジアには、既に「子どもの足跡プロジェクト」に理解を持って頂き、このプロジェクトに関する講座や講演の機会を頂きました。

 ―伊藤さんは、この方面の専門家でいらっしゃるので、伊藤さんのディレクションのもと、研究会を設立するのは、適切だと思います。
 ―大学や研究施設とのコラボレーション

研究は以下の内容を有します:
A. 子ども関連のNPO, NGO,オールターナティヴなグループなどの情報を整理・分類したファイルの制作。
B. 恵まれない子どもたちを支援する社会的なプロジェクトをサポートする企業、事業体などのリストづくり。
C. 恵まれない子どもたちを支援するコミュニティーとそれらコミュニティーが保有する子どもの数などの情報を整理・分類したファイルの制作。

  これらの研究から、子どもを支援する様々なグループの活動を明記した地図が出来ます。この地図やその他の詳細な情報が、将来、子どもの足跡プロジェクトを、これらの子どもたちと一緒に推進して行くには、どのようにしたらよいのかを考える基盤となるでしょう。多くのグループは、ユニセフと仕事をしているので、あまりそう遠くない時期に成果を得ることができるのではないかと思います。本日、皆さまのご意見、そして今回特別にご出席頂いた方々から、この構想に関するご意見を伺うことを嬉しく思います。

2003年 2月8日
H. ゴルバ

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